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STREET 3.0 TALK PROGRAM『アートと香水』レポート

更新日:1月18日


緑川雄太郎氏(左)、中森友喜氏(中央)、進藤篤氏(右)

ストーリーと共に香りを「読む」アートパフューマリーの世界

アートパフューマリーを紹介する展覧会「AP」の関連企画として、12月24日(日)、グランフロント大阪で「アートと香水」をテーマにトークプログラムが開かれました。登壇したのは、NOSE SHOP株式会社代表の中森友喜氏、デザイナーの進藤篤氏、展覧会を企画したアートディレクターの緑川雄太郎氏という異色の組み合わせ。アートと香水の奥深い関係とは?


緑川:「AP」展では国内外から16組のアーティストやブランドの香水を集めています。一般的に「香りを嗅ぐ」、日本の香道では「香りを聴く」と言いますが、今回の企画で大事にしたのは「香りを読む」ということ。アートパフューマリーは、香水それぞれのストーリーとともに香りを読みながら異次元まで行ってしまうような香りです。


中森:香水が一般に流通するようになったのは、1800年代にヨーロッパで合成香料が開発され、コンセプトで香りをつくる「近代香水」が登場してから。世界初の合成香料クマリンを使ったウビガン社の香水「フジェール ロワイヤル」は、香りを持たないシダに香りをつけたらどんな香りがするだろうという概念を持ち込んで作られました。


進藤:”見立て”から次のフェーズに発展させていくところに香水があったことに驚きました。私は空間を軸にデザインや作品制作をしていますが、LUFUというブランドでヘチマを使ったインテリアアイテムをデザインしました。このアイテムは、オブジェとしてだけではなく、ルームフレグランスや香水を吹き付けて香りを楽しむことも提案をしています。


緑川:香水は肌に付けるだけではない。香水の概念はどんどん変わっていますね。アートパフューマリーという言葉が登場したのも最近です。中森さんはアートパフューマリーを扱われていますが、どう捉えていますか?


中森:香水をつくる数々の作家さんと出会い、アートパフューマリーに引き込まれました。一過性が強い珍しい香りのニッチフレグランスを扱う小さな香水メーカーがこの20年の間に世界中で同時多発的に勃興してきました。この100年間はシャネルなどのファッションブランドが香水を生み出してきましたが、それが終わり始めていると感じます。ニッチフレグランスは誰かが仕掛けたわけではなく、技術革新や情報化社会が背景にあります。そして今は、時代の最先端だったニッチフレグランスが1周回ってニッチではなくなっている。ニッチフレグランスの評価が定着して、ニッチ風フレグランスがたくさん出始めています。こうしたフレグランス市場の動向とアート性のあるブランドを区別するためにアートパフューマリーという言い方が生まれたのではないでしょうか。


進藤:空間デザインの視点からいうと、何もないところには空間は存在しません。何もなくてもカラーコーンを4本立てれば空間は存在します。香水と空間デザインを考えた時、何もないところでも香水をひとつ吹きかければ空間が立ち上がる、気配が生まれる。香水は自分のためだけでなく空間の世界観を創ることなんだと思いました。意外にデザインと香水は接点があると思い始めています。



緑川:AP展をする時にテキストが非常に重要だと思いましたが、嗅覚を言語化するのは難しい。嗅覚自体の言語化より、感動したのは香水それぞれのストーリーです。例えば、Etat Libre d'Orangeによる「ラ ファン デュ モンド(世界の終わり)」という香水は、「私たちが世界の終わりを体験するのは映画館である」とポップコーンの甘い香りを取り入れている。ストーリーに刺激されて妄想がふくらみ、実際に嗅いでみたらウワッとなってその感動が大きかったんです。このアートパフューマリーという概念は始まったばかりではないでしょうか。


中森:始まったばかりです。そもそも香りが芸術に昇華されていない歴史的背景はあるのでしょうか。


緑川:オルファクトリーアートというジャンルがあって、1938年にデュシャンが企画した展覧会で、コーヒーを焙煎する香りを用いたのが初期の一例だと言われることもあります。あるいはオルファクトリーアートは、ラディカルで、異臭や激臭、ぎょっとする香りが多いですね。


進藤:香水を完全に言語化できないのは、夢を言語化できないのと近しいのではないでしょうか。例えば、空を飛ぶ夢を見ても、実際に経験していないので本当には言語化できない。香水もキーワードはつくれても本当の香水の香りと言葉は同じか明らかではない。だから完璧な言語化を目指さなくても良いのではないでしょうか。


緑川:なるほど。視覚や聴覚情報はデジタル化して世界中に送れますが、嗅覚や味覚はそこでしか体験できない。その貴重性が逆に良いと思います。


中森:香りを言語化できないのはその通りです。嗅覚のメカニズムがわかってきたのはこの数十年のことで、香りの分子が鼻の奥のセンサーに付着して、センサーが興奮しそれが電気信号となって脳に伝わり、香りを判断しています。主観的な感覚なので客観的な言葉にしにくいのです。


緑川:普段私たちは視覚情報で生活していて、視覚で世界を捉えています。アートはこれが現実だと思っているものを、視点をずらして提案する。その意味で香りがアートとしてもっと楽しくなればいいなと思います。


進藤:アートもデザインも分断されがちで、それぞれが別の文脈で語られることが多い。でも、もっと中間領域で楽しみながら行き来することで、アートも香りもデザインも新しい形で未来に向かって残せるものになるのではないでしょうか。


始まったばかりのアートパフューマリーの世界。「AP」展は1月28日(日)まで船場エクセルビルで開催しています。ぜひご自身の嗅覚で本展を体感してください。




プログラム:STREET3.0「AP」


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